日本男性は、草食化していない

2019/11/05

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歴史社会学の視点から、恋愛や結婚について研究を重ねている東京大学大学院教授・赤川学先生の連載2回目。今回のテーマは、日本の男性の草食化が進んでいるかどうかです。恋愛に積極的でない男性を、草食系男子と言うようになったのは、2006年ごろから。それから13年、日本の男性の恋愛・結婚観はどう変わっていったのでしょうか。世界の恋愛事情と比べながら、解説していきます。

日本男子の草食化は進んでいる?

――昭和・平成初期時代あたりまでは、男性が女性に恋愛のアプローチをかけていたようにも感じます。多くの婚活中の女性から「最近の男性が草食化している」という声をよく聞きますが、実際はどうなのでしょうか。

「男性が恋愛に積極的ではないことは、実は最近のことではありません。
私が青年時代を過ごしたのは、男性が最もアグレッシブだったとされるバブル期(1980年代後半)ですが、その頃でも彼氏/彼女がいたのは、ほんの一部にすぎません。荒川和久氏によると、1980年代以降、現在に至るまで、恋人や婚約者がいる人の割合はだいたい3割前後で安定しているそうです(『超ソロ社会』PHP新書, 2017, 89頁)。
また江戸時代は現代にくらべて、離婚率が高く、男性の結婚率が低かったというのが、歴史人口学の教えるところです。
つまり、男女ともに、自ら恋愛や結婚をしようとするのは、全体の一部にすぎず、ほおっておけば「草食系」になってしまうのです」(「」内 赤川先生・以下同)

――日本人は恥の意識が強く、奥ゆかしい人が多い。他国と比べても、恋愛に消極的な人の割合が多いかと思いきや、そうでもないと続けます。

「2015年に内閣庁が発表した『少子化社会に関する国際意識調査報告書』に、気になる相手には自分から積極的にアプローチするかどうかを調べたデータがあります。これは、日本、フランス、スゥエーデン、イギリスの4国で、結婚も同棲もしていない男女を調査したもの。これを見ると、国別の恋愛への積極性がある程度わかります。
そこで、恋愛に積極的な男性の割合は、日本25.9%、フランス22.5%、スウェーデン28.6%、イギリス22.9%となります(荒川和久、前掲書、99頁)。」

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――女性側のデータを見ると、最も恋愛に積極的なのは、スウェーデン女性の40%。それに対し、日本の女性は12.8%と少なめです。しかし、相手からアプローチされれば考えると答えた人が45%もいます。フランスもイギリスも10%台で、スウェーデン女性でも36.9%。各国と比べても、日本女性が群を抜いて受け身であることがわかります。

「この比較データを見ていると、恋愛に積極的なのはスウェーデン人であり、他の国は同じくらい。“愛の国”と言われているフランスも、日本人と変わりません。ですから、日本男性、日本女性が草食化しているわけではないのです。この背景には、その国の文化や国民性があることが考えられます」

フランス人は恋愛に積極的ではない

――スウェーデンを除き、どこの国も3割程度しか、恋愛に積極的な人がいないことがわかったところで、結婚観の国別の違いを教えてください。

「これは比較するのが難しいテーマです。そもそも、ヨーロッパやアメリカで、結婚という形が崩れ、入籍せず子供を産む選択をする人が増えています。これには、夫婦で行動することが“当たり前”という、カップル文化があります。
一方、日本では、結婚しなければできないことは、出産・育児くらいです。その他のことは、おおむね自由で、一人で暮らしやすい社会です。ただ、子供をきちんと産み育てることを重視します。これは他のアジア圏でもよく見られる傾向です。
あとは、イタリアも家族重視で日本に近い。イタリアも日本と同じく、結婚しないで実家にとどまる人も多いです」

圧倒的に異性に触れない、日本独自の文化

日本人男女が草食ではないことはわかりました。しかし、日本に来ている外国人旅行客を見たり、海外に行ったりすると日本人は草食のような気がするのです。

「それは、異性に限らず、相手の体に触らない日本文化があると感じます。欧米には、握手、ハグ、ビズ(キス)の習慣があり、日常的に人と人とが抱き合っている。その上で、男女の平等という観点から、セクシャルハラスメントが問題になるのです。
しかし、日本は、もともと非・接触文化の上に、相手に触ったらすぐにセクハラと糾弾されかねません。また、特に男性が女性に積極的に話しかけたり、食事に誘ったりすると、相手の感じ方次第で、リスクが高くなります。ハラスメント問題が叫ばれるようになった20年前ほどから、一層、異性に近寄らなくなったと考えられます」

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確かに、日本には異性に慣れるという土壌がありません。それでもかつては学校でのフォークダンス、ディスコのチークタイムなど、異性に接触するチャンスがあったのに、今はどうなのでしょう? 少なくなってはいないかと、問いかけてみたいです。

「ここ東京大学にも、多くの国の方々が留学しています。韓国の人、中国の人は、異性であれ、同性であれ、二人で手をつなぐ姿をよく見ます。日本人はそうではないですね。
また、恋愛をしていると評価が下がると考える人が増えました。リスク回避のためなのか、研究室など同じ組織の中で付き合うカップルも減りました」

――日本人男性の草食化は、文化の問題だったのです。圧倒的に他国と違うのは、非・接触文化ということ。恋愛上手になるためには、ボディタッチから始めてみてもいいかもしれません。

「最近になって、特に「草食系男子」が増えたわけではなく、これは何百年にもわたる日本の文化的伝統ともいえます。ただ思い返せば、江戸時代の男性は、仕事場でも近隣社会でも、男同士でつるむことが通例でした。その限りでは、彼らも楽しく生活していたはずです。しかしその集団から外れると、ひとり寂しく生きていかざるをえない。そういう過酷な面がありました。
現代では、職場や友人関係でも男性同士の付き合いは縮小傾向にありますし、男性同士がつるんでたのしいという気持ちが薄いと感じます。それでも生活していけるということなんでしょうが、他方で孤独化・孤立化する人々(特に男性)が増えはしないかと心配にはなりますね。」

次回は婚活中の男女に具体的なアドバイスを伺います。

文/前川亜紀 写真/廣江雅美

赤川学先生

プロフィール

東京大学大学院教授 赤川学先生

1967年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科社会学専攻博士課程修了。博士(社会学)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。社会問題、セクシュアリティ、少子化問題、歴史社会学などを研究。著書に『子どもが減って何が悪いか!』(ちくま新書)、『明治の「性典」を作った男: 謎の医学者・千葉繁を追う』(筑摩選書)、『セクシュアリティの歴史社会学』(勁草書房)、『社会問題の社会学』(弘文堂)など多数。

過去記事一覧

第1回目 「普通」の基準が爆騰している日本の結婚事情