「普通」の基準が爆騰している
日本の結婚事情

2019/10/15

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婚活をしている30代の男性・女性の間に、なんとなくお疲れモードが漂う今日この頃。「そろそろ結婚したいけれど、いい相手がいない」「合コンや婚活パーティに行って頑張っているのに、合わない人だらけ」などと考えている人も少なくありません。
なぜ、男女ともに「いい相手」がいないのか……その理由を、歴史社会学で解き明かしている東京大学大学院教授・赤川学先生に伺いました。

女性が結婚を避ける、自分より低スペック男子

――生涯未婚率(50歳時未婚率)が上昇しています。国勢調査によると、50歳まで結婚したことがない人は、1990年に比べ2015年の国勢調査では約4倍です。なぜ、シングルは増え続けているのでしょうか。

「その理由は大きく2つあります。1つは経済の低成長です。皆が結婚できると信じられていた時代は、戦争や経済成長がありました。それ以前の江戸時代では、家を継ぐ人しか結婚を期待されておらず、現代より未婚者が多かったのです。現代の日本社会は、そこに戻っているという言い方もできるのです。
2つ目の理由は、女性の社会的地位が向上したことです。それにより社会的地位の低い男性と結婚したがらなくなりました。男性も、自分より社会的地位が高い女性を避ける傾向がある。これは東大女子がモテないと(根拠なく)信じられていることからもわかります」
(以下・「」内 赤川先生)

ビジュアル設定_図版ハイパーガミー

――女性が自分より階層が上の男性を結婚相手として選び、男性は自分よりも階層が下の女性を選ぶという、旧時代的なライフスタイルの感覚が残る理由を教えてください。

「この問題は社会学の世界でも、長らく考えられてきました。男女平等という時代になっても、女性の上昇婚(ハイパーガミ―)志向は変わりません。
男女雇用機会均等法(1986年)から、女性の地位が上昇し学歴や経済力で男性よりも上位の結婚形態が増えるだろうと一部で考えられていましたが、実際はそうなっていません。高学歴の女性が自分よりも低い学歴の男性を結婚相手に選ぼうとすると、家族、友人、上司など周囲が反対する傾向が強い。“おさまりがいい”のか、この意識や志向はなかなか変わりません」

――同級生や同僚同士で結婚する同類婚(学歴、年収などが同じスペック同士の結婚)はもともと多いですね。
同類婚をしている人は20代が多く、男女ともいわゆる “普通のいい人”同士が早めに結婚しています。30代婚活男女の“普通の人がいない”という嘆きにつながっているようです。

「それは、“普通”の水準が上がり続けている背景もあります。バブルの頃のような高身長・高学歴・高収入の“三高”男性に、現代は家事メン・育メンという追加要素が求められています。
経済が低成長なのに、女性が結婚相手となる男性に求める条件がむしろ上がっているのです。婚活中の女性が600~700万円の年収を“普通”と見なすなら、そんな年収の男性は実際には非常に少ない。ここにすれ違いが起こってくるのです」

メインビジュアル設定_赤川教授のトーク風景写真

結婚しなくても、子供は欲しい

――結婚生活は経済的負担が増え、自由が制限される側面があります。実際に、20年ほど前から独身生活は快適だと考える“おひとりさま”の男女が増えてきました。それでも男女ともに結婚を考えている人が多いのはなぜでしょうか。

「なんといっても子供の問題です。女性が経済的に自立し、社会的地位が上がってくれば、結婚するメリットはどんどん少なくなるでしょう。しかし、少なからず日本では“女性ひとりで子供を産み育てにくい”という考え方が強い。無理してまで結婚や出産が当たり前でなくなり、困難化しています」

――出産のリミットと言われる30代後半で、若く低スペックな男性と電撃結婚し、出産するキャリア女性もいます。

「それはそれで、お互いが納得しているならば結構なことです。もっとも、社会的地位の高い女性にとって、夫の存在はあくまでオプションにすぎません。比較的早期に離婚し、シングルマザーとなってバリバリ働き続けるケースも目立ちます。結婚は少子化対策のためにするものではありませんが、格差婚がさらに増えれば、出生率も上がっていくでしょう。」

――では、女性で階層が上の人は、どのような人と結婚すればいいのでしょうか。

「大富豪を狙うか、独身を続けるか、それとも格差婚を受け入れるか、のいずれかでしょう。でも、女性にとっての格差婚、男性にとっての格上婚でも、“合う相手”はいるはずなのです。そういう人が増えているから、細かい条件を精査できるAIの婚活マッチングサービスなどが、今後、”縁結びの神”として役立つ可能性はありますね」

――今回は、日本の結婚における文化や背景を紐解き、日本の未婚率が上がっている背景を伺いました。次回は海外の恋愛・結婚の事情を交えて、日本の婚活問題を語っていきます。

文/前川亜紀 写真/廣江雅美

赤川学先生

プロフィール

東京大学大学院教授 赤川学先生

1967年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科社会学専攻博士課程修了。博士(社会学)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。社会問題、セクシュアリティ、少子化問題、歴史社会学などを研究。著書に『子どもが減って何が悪いか!』(ちくま新書)、『明治の「性典」を作った男: 謎の医学者・千葉繁を追う』(筑摩選書)、『セクシュアリティの歴史社会学』(勁草書房)、『社会問題の社会学』(弘文堂)など多数。